さよなら恋ときみ

smile×J



お題サイト「確かに恋だった」様からお題をお借りしました――「恋したスパイに10題」





(※今日その猫は死にました のつづき)


重くて苦しい苦味。咽喉の奥で血の味がする。胸が重い。
僕は君の笑みを見ても何とも思わない。
君の声を聞いても何とも思わない。
君の手が触れても何とも思わない。
ただ、胸が猫の屍の所為で重い。
こうやってうまいこときみへの気持ちを無くしおおせたと思ったのに。
咽喉を引っ掻く爪も、うるさい鳴き声ももう どこにもないのに。

ああそういえばこの胸から猫の屍を取り出す方法すら分からない。これを何処かに捨ててしまう方法はどうすればいいんだろう。君に聞いたってきっと分からないし、あんまりきみに近づくとまたきみは僕の胸に猫を入れてしまうかもしれないからだからもう君には近づかないことにする。

もうどうせ逢うこともないだろう。さよならしたからおしまいなんだよ。君は君が僕に勝手に入れてった猫の屍を持ってどこかへ消えてくれれば良い。ただ、二度と僕には会わないでほしい。

だって、ねえ、もう猫を飼うのなんてこりごりだ、とお京の背中を撫でながら話しかける。

お京は気持ち良さそうに目を細めながら、じゃあなんで泣いているの、と聞いた。


違うよ息が詰まったのは泣いたからじゃない。
この胸で死んでしまった恋が重くて呼吸も上手くできないんだ。


2006.08.26 - kibitaki/Kugi