お題サイト「確かに恋だった」様からお題をお借りしました――「切ない恋10題」
白夜のようなひとなんだ。
そう、ちょうどあいつの生まれ故郷の国のそれのような。
曇らず濁らず真っ白で貞潔。
白、ってそういうものだ。
誰もがそこに新しい色を落とすのを躊躇する。
だってそんなことをすればその美しい白は必ずどうしようもないほどにその色に染まってそして濁ってしまうからだ。
まして黒だなんて、問題外。
さわれなかった。
キスとかハグとかしたいことはたくさんあったけど、それで俺やあいつがどうにかなってしまうことを恐れた。
俺はまっさらな、そのままのあいつが何より好きだったんだ。俺がふれて濁らせてしまうことを恐れるくらい。
そうしたらその間にさあっと赤い色が滑り込んだ。そしてあっという間に白に混ざってしまった。
ピンク。今のあいつの頬の色と同じ。
もうどうしようもない。そこに黒を入れたらさらに濁してしまうとわかっているから。
だからここに立っているしかないのだ。
白夜のようなひとなんだ。
だからきっと太陽のようなあいつが好き、なんだろう。
あの国は夜が好きじゃない。極夜、長すぎる夜がある国だから。黒はいらないのだ。
知っている。だいすきなあいつのことだから、すべて。
あいつが誰を好きなのかや、俺を決して好きにならないということも。