「なあ、バシン」
「ん?」
「お前、なんでバトスピを始めたんだ?」
そう問いかけたのは間を持たせるためだった気がする。
考えながら一生懸命言葉を紡いで答えるバシンの姿を見ながらも、その返答は頭の中に入ってきていなかった。
風にさらわれる、癖の強い橙色の髪。
何となく手を伸ばしてその髪に触れると、バシンはびくりと肩をすくめた。
「………な、何だよストライカー」
「いや、」
言葉を止める。
本当に、ただ何となく触れただけで、言い訳じみた言葉すら浮かんでは来なかった。
どんな時でも真っ直ぐな目だなあと、困惑に揺れる瞳を覗き込む。
「何だよ、お前今日はおかしいぞ」
「そうか?別にそんなつもりはないんだけどな」
そうやって笑って見せると、つられたようにバシンも笑顔になる。
そうか、それなら良かったと上げた口角をとらえてみた。
驚いたようで一瞬瞳孔が収縮する。
「ふへっ!?」
むにい、と白い頬をつまんで引っ張ると、困ったような怒ったような表情を浮かべる。
いきなり何するんだよ、と目が訴えかけてくる。
「バシン」
なんだ、と問いかける(ように見える)眼に、一人ごちるような言葉を返す。
自分に言っているのかバシンに言っているのかも分からない。曖昧な言葉。
「お前、いつも誰のこと考えてる?」
どういうことだろう、と困惑が流れる。つまんだ頬を放す。
バシンはつままれて赤くなった頬にてのひらで触れて、ただただ困ったような表情を浮かべている。
「お前の心の中に俺はいるか?」
「ストライカー?」
「お前はいっつも、Jのことばっか考えてる」
その言葉を聞いて、バシンは悲しそうに頬に触れていた手をだらりと下にさげる。
ああ、違う、そんな顔を見たかったわけじゃないのに。
そんな顔をさせたかったわけじゃない。
ただ、お前には俺のそばで笑っていて欲しかっただけなのに。
「……そんなことない」
その言葉が言い訳じみて聞こえて、俺はバシンの肩を掴んだ。
掴んだ体が強張り、ぎゅっと力を込めたのを感じる。
「…………ぁ」
何でだろう。
何でこんなに悲しそうな眼をさせてしまっているのだろう。
俺はこいつのことが好きなのに。
「俺はストライカーのこと好きだよ。ストライカーのことだって考えてる」
その言葉に。
その言葉に徹底的な乖離を感じてしまった。
違う、そうじゃない。お前の言う「好き」と俺の「好き」は多分違う。
でもきっと伝えたところでこの気持ちは届かないのだ。
肩を掴む手を放して、ぎゅっと腕の中に抱きしめた。
何が起こったのか理解していないような気配が腕の中から伝わってくる。
「…バシン、今だけ」
「……………ストライカー」
俺より少しだけ小さい手が後頭部を、首を撫でる。
子どもをあやすようなそんな優しい手に感じた。
でもそれが手に入ることはきっとないのだと思うと、
それでもその心地よい体温に身を任せ、今だけだと自分に言い訳をして、俺は短い夢を見ていようと目を閉じた。