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ツルゲーネフ

smile×J


キスをするのは初めてではなかった。手をつないでキスをして抱きしめて、そんなこと米国でもこっちでも何回かやっていた。安い行為。ためらいだって別にない。特に深い感情のない行為だから。やわらかな肌の温み、その体温が欲しくて何処にでもある言葉を囁いたり甘くもなんともない口付けをしたりを繰り返して、いたのだけれど。本当はどうでもよかった。そう、どうでもよかった。自分は今までにキスをした相手のことを覚えていない。ただそれだけ、行為をしたことが自分に残るだけ。
だけれど自分はその唇に唇を重ねる事をためらった。ビスクドールの肌。桜色の唇。抱きしめてもいいのか。ラムネ瓶の中のビー玉のような色の瞳、そこに被さる長い睫毛。嫌そうに眉をひそめる。好かれてはいないらしい。だけれど胸の中がぐるぐるとまわって五月蝿くてその音が聞こえやしないかと不安になってどうしようもなくてどうしようもなくなって何故だかキスをした。Jがぱちくりとその少女のような目を見開いた。多分本当のキスをしたのは初めてだった。本当にいとしかったのだ。そのひとを。かけがえもなくそして失われやすいそのひとを愛した。

はじめての、恋だった。


2006.08.26 - kibitaki/Kugi