蛇を孕む

smile×J×smile


ちゅく、と濡れた水音が生まれる度に背筋が震える。背骨を内側から引っ掻かれているような感覚。痺れに似た熱。
目の前に跪いて指をしゃぶっている姿。
口許から見え隠れする赤い舌。その先で丹念に指の股までなぞられる度に、行為に及んでいる訳でもないのに甘い息が零れた。
先程から彼の名前を呼ぶことが出来ない。もうやめろ、と、止めてくれと伝えたいのに。言葉は全て呻きに似た息となってかたちにする前に唇から逃げていく。
その白く鋭い歯が指先を甘噛みする。熱く滑らかな舌で舐められていた指先は敏感になっており、その刺激に鋭敏に反応する。洩れそうになる声を堪えると、スマイルが上目遣いに笑った。熱に曇る視界の中で、その鼈甲飴のような琥珀のような眼はとてもきれいだったきんいろにひかっていた。
ぞくり、と先ほどとは違う震えが背筋を抜ける。ぬらぬらと濡れた熱い指先が鼓動を持っている。
再認する。もう駄目だ、やっぱり自分はこの人に恋をしてしまっていた。

スマイルのくわえた指をぐいと奥に押し込む。いきなりのことに彼が少し噎せる。戸惑うように見上げたその眼に微笑んで、指先で舌に触れる。頭を押さえて指を押し込み、口腔を掻き回す。ちゅぶ、と濡れた音がする。苦しげな息がスマイルの口から洩れる。開かされたままの口の端から唾液がつうとこぼれる。苦しい、と訴える眼。トパーズのひかり。いとしい。

きっと自分は彼が思う以上に彼に恋している。愛というより、やはり恋。喰い殺してしまいそうになる感情。罪と知っての劣情。
ああいとしい。
呼吸さえ妨げられている苦しさに、きんいろの右眼がぼろりと生理的な涙をこぼす。きれいだ。ああ、そのうつくしい金色の瞳に舌を這わせたい。零れる涙ごとそのつるりとした眼球を嘗めたい。こんなにもいとしいこの人をたべてしまいたい。


嘗ての自分に無かった感情。彼が自分に刻んだ感情。欲求に従って動くこと。
ああ、恋しいひとよ。

突然逆転した関係に混乱を感じているのだろう彼に、何も不思議ではないのだよ、と教えてあげるために、頬に流れる涙を舌で掬いとってくちづけた。


2006.08.26 - kibitaki/Kugi