鈍色ハニーデイズ

sense×smile





(多分貴方は幸せにならないように私の事を愛すのです。)




「師匠」

ぎちり、とソファが軋んだ。
師匠の顔を見下ろして、うっとりとため息をつく。
自分は手に入らないものを待っている。
手に入らないものを持っている。
一番近くにあるものが一番遠いなんて、何という皮肉だろう。
呆然としたような愛しい人の顔をそっと掌で包むように撫でて口づけした。

「師匠?」

薄暗い二人きりの部屋で別に何をするつもりも無い。
押し倒したからといって何もしない。
ただこの人を自分のものにしている感覚だけ味わいたかった。
それなのに師匠は頬を撫でても口付けしてもその上に伏せっても
呆、と口もきかない。状況を理解できていないのか。

「……No……4…」
「師匠、」
「……お前…」

にこ、とその首を抱きしめて愛しい人に愛を囁く。
それなのにこの人は怪訝な顔だ。

「師匠」
「お」
「師匠師匠師匠師匠師匠ししょう、ししょう?」

ぐるぐると不思議に歪む視界の中で師匠が困惑している。
自分にだって分からないのに師匠に分かる訳がないだろう。
きっとこの気持ちを如何すればいいか聞いてみたって答えは出ないのだ。
何処にも、何にも。

「なんで、」

如何してこの、自分の愛しい人は、

「何で、僕のものにはならないんですか?」

どうしようもなく、哀しいとか悔しいのではなく不思議で仕方なくて、首を傾げた。
如何して目の前に居るのに決して手に入らない。
如何して、この手に届かない。
如何して。

「ねえ師匠。」

その背をぐいと引っ張られて師匠の上から引き離される。
振り向くとNo.9の不愉快そうな顔があった。
師匠の、安堵のような息。不安感と焼け付く様な嫉妬が心臓を引っ掻く。

「……私の部屋で何をしている」

当て付けだ、とは言わずぐいと睨みつける。
トパーズ色の瞳が歪む。
(なにをしているのだろう)
そうだ、前は。
師匠もNo.9も大好きだったのに、如何して。
自分の手の中には何も残ることなく毀たれていくのだ。
如何して?

「ここを乱すのもいい加減にしろ、No.4」

あの金の瞳に優しさが宿っていたのは何時だったろうか、とか。
師匠を奪おうとしなければ良かったのは知っている。
知っていたってどうしようもなかった。諦める気などさらさらなかった。
自分と師匠は特別なのだと信じていた。

「……No.5、ウチュウチョウテン王が呼んでいる。捜していたんだ」
「分かった、すぐ行く」

ああ、と立ち上がった師匠にすがる様な目を向けた自分が居るのを遠くから見るように感じる。
哀れな自分。届かないと知っていても捨てられないなんて、なんて愚かな。
自分は子供で、そしてそれ以上の壁が自分と師匠の間にあって、決してそれが崩れることはないのだ。
むずかる子供のようにねだったって得られることは無い。

師匠は部屋を出て行く前に一度だけ僕の額に、あやすようなキスを落として行った。
この上も無く残酷な甘さが額に残る。
苦痛の伴う烙印、自分は子供だという烙印を焼き付けられ、泣く事さえも出来ないのに、 この胸は余計に恋焦がれる。
ああ愚かな自分の心臓。無為な恋に焦がれる愚かな心臓。
叶わない気持ちに弾けて死んでしまえばいいのに。


誰も居ない無意味な部屋のソファにうずくまって、このまま死んでしまえそうな気がした。




(いっそ嫌ってくれれば)
(いっそ憎んでくれるのなら、)(そう、信じられるのに)


(あのひとは)
(何を奪えば僕を憎んでくれるだろうか。)




COMMENT

20090409
なんだこのカオス。g d g d !954なんて名ばかりだ!アレです、4をヤンデレにしたかったのです。
CPを如何表記していいかも分からんぞ。…95←4?
そして現場は何故かあえての九条さん私室でした!ごめん9!


2006.08.26 - kibitaki/Kugi